カイコを原料とした新しい薬

カイコを原料とした新しい薬

皆さんこんにちは! 
皆さんはカイコをご存知でしょうか? 

漢字で表記すると「蚕」となる、イモムシのような虫です。
カイコといえば、絹を生成する為に必要不可欠な生き物ですが、今回紹介するのは、このカイコを薬の原料を作るために使用するというものです。

長年に渡る研究の末、たどり着いたカイコの活用方法とはいったいどのようなものなのでしょうか?

長年のカイコの研究の結果

今回紹介しているカイコを医薬品の原料にするという知識は、九州大大学院農学研究院昆虫ゲノム科学研究室の日下部教授のグループによるものです。

九州大学では約100年前からカイコの研究を続けており、その研究内容は「発生遺伝学の視点を持って、形質突然変異体における卵形性の特徴」をはじめとし、昆虫の遺伝子や、昆虫の生態を用いた様々な研究を行っています。

そうした長年の研究の積み重ねによって生み出された業績は様々で今回紹介しているカイコの研究もその内の1つで、約480種の中から、ワクチン等の原料となる、たんぱく質を大量に生成するカイコを見つけ出しました。

現在、私たちが使用しているワクチンは毒性や感染力を弱めたウィルスを用いています。
例えば、一般的に予防接種しているインフルエンザ等で使用するワクチンでは、インフルエンザウィルスの毒性や感染力を弱めた上で、ウィルスを増殖させています。

また、増殖させるときに用いられるのは一般的には鶏の受精卵や動物の細胞です。

しかし、日下部教授グループでは、カイコを原料に用いることで、ウィルスを増殖させずにワクチンを生成する方法を編み出したのです。

その方法とは病気を引き起こすウィルスの一部の遺伝子を、「ベクター」、「遺伝子の運び屋」と呼ばれる物質を利用してカイコに注入します。

その結果、カイコの体内ではウィルスの遺伝子構造は似ているものの、感染力がなく、病気を引き起こさない安全なたんぱく質が形成されます。

これをワクチンの原料とすることで、人体に影響を与えず、予防接種としての効果にも期待することができる医薬品を製造することができるのです。

このカイコが体内で生成したウィルスと似た遺伝子構造を持つたんぱく質は「ウィルス様粒子=VLP」と呼ばれています。

VLPに期待できる要素

日下部教授グループは約7年の年月をかけ、VLPを効率的に生成するカイコを見つけ出しました。
カイコに飼育が比較的容易であること、大型施設が不要であることから製造コストを低減することに期待でき、体内で生成されたVLPも感染性がない為、危険性も高くない為、安全性も保ちやすくなると言われています。

日下部教授は4月に会社を設立し、VLPを原料とした医薬品の製造を本格的に事業化していく予定とのことです。

現在、カイコによるVLPはペット用医薬品の原料を製造する方針で進められており、今後はノロウィルスやロタウィルス、子宮頸がんワクチン等の人間用の医薬品の原料にも活用できるよう研究が進められる方針です。

VLPが一般的に利用されるようになれば、現在でも流行しているインフルエンザのワクチン不足の解消や、費用の低減、ワクチンとの相性が悪く感染してしまうといったデメリットを解消できるようになるかもしれません。

国内で生産できる安全性の高い医薬品の登場は、日本の医薬品業界だけでなく、医療業界にも大きな影響をもたらすと言えますね。

我々薬剤師もこうした医薬品業界に新しい風が吹き込まれることは嬉しい状況です。
より多くの患者様に、お渡ししやすい価格や、確かな効果、人体への影響の低さという要素を含めた医薬品があれば、もっと多くの患者様が快適に暮らすことができるからです。


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